2009/07/31 (Fri) 23:40
リンク×アレン。
突発的に書きたくなったモノなので細かい所は気にしないでください。
あ、文です^q^
鈍色の雲からサアサアと雨が降っている。
さほど強く降っているわけではないのだか、固い石造りの建物に雨は音を荒げて当たり、這うように滑り落ちていく。
そんな石造りの建物の中庭に、彼は腰を下ろしている。
胸に膝が付くくらいに足を折り曲げて。
(やっと見つけた…。)
少し目を離した隙に抜け出され、かれこれ1時間半も探していた。
私は監査官で、彼は監査対象。
自分の仕事は彼の監視なのだ。居なくなられては困る。
「滑るよ」
敷石同様、雨に降られた柱にもたれ掛かりながら彼はぽつりと忠告をもらした。構わず、雨にたたき付けられている彼の側へと近寄った。
頬に冷たい雨粒が当たる。
彼は全身ずぶ濡れで、乾いた所なんてどこにも見当たらなかった。
私の方は見ず、ただただ鈍い空を見上げていた。
(目に雨が入らないのか?)
くだらない疑問はすぐに消えて、何百回目になるのか解らない文句を言った。
「ウォーカー、キミはまた私の言うことを無視して…」
「無視してないよ」
「……発言しているのを遮るのもどうかと思いますが」
「ゴメン。ねぇ、飴か何か食べるもの持ってない?」
急に何を。いや、彼が食べ物の話をするのは今に始まった事ではないが、1時間も逃亡していた彼に些か腹がたった。
「……1時間前だったらキミの部屋に出来立てのワッフルとプディングがありましたがね」
肩に雨が染み込んできた。前髪も濡れて額に張り付く。うっとおしい。
苛々感と自分の大人げない言葉が相俟って軽い自己嫌悪だ。
「もう無い?食べちゃった?」
「あるにはありますが、少し固くなっているでしょうね」
「リンクが作ったのなら美味しいよ」
皮肉を込めた言葉を吐き出しても、褒め言葉で覆いかぶさられてしまう。
まだ、彼は空を見ている。
遠く、空なんか突き抜けて遥か知らない世界を見ているような、ぼやけた眼球で。
脇の植え込みに生えていた花が風に弄ばれてひしゃげそうだった。
彼は、動かない。
彼らしくない振る舞いに、幾許か戸惑いを感じる。
ザアッと、雨の音が一瞬、強く聞こえた。
彼にかけられた疑惑、警戒、彼自身の困惑、怯え。
彼に与えられた衝撃が多すぎた。
たった15歳の男児がそれを悩まないと誰が思うだろう。
それに恐怖しないと、誰が思うだろう。
「お腹減った」
「…ウォーカー」
「お腹減った。リンクのワッフルとプディング食べたい」
憂いを含んだ瞳に似つかない幼い言い方。
時々彼が解らなくなる。解らないことだらけだ。
「なら部屋に戻りなさい。冷えたので構わないならすぐにでも食べられる」
「リンクここまで持ってきてよ。僕待ってるから」
彼はそう言って、膝を両手で深く抱えた。
意地でも動かないつもりだろうか。植物の蔦のように柱と敷石にピッタリと身体をくっつけている。
「私には君を監視する義務がある。君から離れるわけにはいきません」
「ははっ!1時間も見付けられなかったのに」
「それとこれとは別です。君もいい加減にしないと体調を崩しますよ」
「ダイジョブダイジョブ。僕頑丈だから」
ケラケラと笑った彼に、雨粒が絶え間なく掛かる。
私の頭も上着も靴も完全に雨を吸い込み重くなっている。
彼はまだクスクスと笑う。
あぁ、苛々も自己嫌悪も怒りもなにもかもごちゃまぜだ。
「そういう問題ではない!万が一体調が優れなくなったら辛いのは君なんですよ!」
見付けてから初めて、彼がこちらを見た。
白く、光を放つような頬に赤い一筋の傷痕。
髪と同じ色をした眉と睫毛に水滴が乗っかり、重たそうだった。
一度だけその睫毛が瞬きをして、また開いた。
私の怒鳴りは手を伸ばせばたやすく触れられるであろう距離に居る彼に届いただろうか?
ふわりと彼の瞳が細められ、口唇が小さく弧を描く。
「そうしたらお見舞いにみたらし団子作ってよ」
呆れ果ててしまう。
怒号が微塵も彼に届いてないことにも、彼のおちゃらけた上辺にも。
彼は私には弱い所を見せたくないのだろう。今までも毅然に振る舞ってきている。
(…私は監査官で、彼は監査対象だ)
「……君は食べ物のことしか頭にないのか」
「あははっ」
雨は止まない。淡々と私と彼の上に同じように降りかかる。
彼の身体はもう冷え切っているだろう。
無理矢理にでも連れていき--せめて室内に入れなければ。
そんな思考を巡らせ、彼の腕を掴もうとした瞬間、
彼に掌を握られた。
力強く、痛い程に彼の指が私の手の甲に食い込む。
彼の手袋も私の手袋もシワがよった。
本当に、彼はわからない。
どうしたのだと問おうとしたとき、彼が俯いた。
表情が見えない。
「リンク」
彼は俯いたまま、小さく私の名前を呼び、
私を抱き寄せた。
「な……っ!」
背中に手を回され、彼の頭が私の胸に押し付けられる。
不意を突かれた反動で、私の身体は引っ張りに耐えられずに彼の足の間に尻餅をついてしまった。
ビシャリと水音が鳴った。
背骨に振動が伝わり、思わず呻く。
彼はぎゅうぎゅうと腕に力を込めて私の身体を抱きしめ、顔は私の胸に隠れて全く見えない。
回された腕があまりにも強く私の背中にしがみつくものだから、痛みや少しの憤慨は刹那に消散した。
「…ウォーカー…?」
ただ、彼の身体が震えているのが私の身体に伝わる。
細い身体の筋がカタカタと鳴りそうなくらい、肘や肩が揺れている。
彼の身体はやはり冷えていて、濡れた私の手で摩っても服に染み込んだ雨が邪魔をする。
冷えているだけの震えでは、ないだろうが。
「……リンクー…」
小さく、彼が私の名を呼ぶ。彼は他の人間をこんな消え入りそうな声で呼ばない。
何故震えている。
何故抱き着いた。
何故、顔を上げない。
何故、なぜ。
くだらない疑問はすぐに消えて、
「………お腹減ったよ、リンク…」
風呂に入ってきなさい。その間に新しくワッフルを焼いておきますから。
と、私は彼を抱きしめながら言った。
やさしいきみに、なにをいえば。
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